薔薇と十字架 プロトタイプ [薔薇と十字架]

[たらーっ(汗)]注意がき[たらーっ(汗)]
これは1年くらい前に衝動的に携帯で打ってそのまま放置してたものです。
衝動でやったのでちゃんと考えて書いていません[たらーっ(汗)]
誤字脱字間違いなどちゃんと辞書でチェックしてないし・・・
国語力低いとつらいね[ふらふら]
なんかね、主人公視点と私視点が混じってますが気にせず読んでいただけると嬉しいです[バッド(下向き矢印)]

最終的には作者視点にまとめようかな。
主人公もっと何考えてるか分かんない子にしたいし・・・。

ではプロトタイプスタートです。
逃げるなら今ですよ[exclamation×2][たらーっ(汗)]




「ヴァイオリンを弾いても弾かなくても、麗音は麗音だよ。俺が保証する。
いつか、俺が迎えに来るから…。だから待ってて…。」


それからその言葉だけが、俺の支えだった。


***


あの別れから10年。
麗音と呼ばれた男の子は16歳になった。
細く、さらさらした質のいい黒髪。
何もかも見透かしたような、それでいて捨てられたような目つき。
よく言えば、女性陣からは儚いと騒がれそうな雰囲気だ。


「きたぜ、ワガママ王子」
「楽だよな~、親が権力者だと」
「今日もリハ遅刻だもんな」

ヴァイオリンを持った麗音が会場に入ってくる。

「あいさつもなしだぜ」
「ごめんなさいもなし。どんな育て方してんだよ」
「これだから甘やかして育てられたガキはよ~」

陰口を叩かれるのはいつものことだと、麗音は微塵も気にしない。

小さいころから演奏活動をさせられていた麗音は、自分がワガママを言うより、大人にワガママを言われてきた。

この世界で、大人に翻弄され続けてきた。

だから、今自分が大人を使ってやって、バカにして、何が悪い。
自分を金儲けの道具にしてきた両親を困らせて何が悪い。
どうせ弾けばいいんだろ。
ヴァイオリン以外の自分なんていらないんだろ。

そう考えていた。


***


もうずっと、俺の音楽は空っぽだ。

何も聴こえないんだ…。

今は、昔の自分のマネして弾いてごまかしているけど。

きっとすぐ限界が来る。

どうしようもないんだ。1人では。

だから、早く迎えに来て。

ここで、待ってるから。

ツカサ兄ちゃん…。


***


ー10年前ー


6歳の麗音には、その才能も、有名音楽家の息子という地位も重すぎた。

「イヤだよーお外に弾きに行きたいよー!」
「何言ってるの!そんなのムリに決まってるでしょ!」

母を見送り、うつむいた麗音はぽつりとつぶやいた。
「だって、お外じゃないとみんな話しかけてくれないんだもん。」

麗音は少し変わっていた。
いや、かなりと言っていいかもしれない。
彼は自然から聴こえる声を音にしていると言ったのだから。

それでも、麗音の音楽は多くの人の心をとらえ、持って生まれた才能は大きく、6歳ながらメキメキと実力を伸ばしていた。

「あ」
一人練習していた麗音は何か気付いたように窓を開けた。

すると、空き家のはずの隣の家に人影があるのがわかった。

「誰?お引っ越ししてきたの?」
人影が答える。
「うん。昨日ね。」
麗音は物珍しそうにその人を見つめる。
色素の薄い肌に髪の毛。
自分のものとは全然違う。
「きれいだね」
目を丸くして嬉々としている麗音に人影が照れくさそうに言った。
「ありがとう。」
「お兄ちゃん名前は?」
「ツカサ」
「僕はレオ。」
「かっこいい名前だね。あ、それヴァイオリンだよね?」
「うん」
「聴かせてよ」
意外な言葉に驚きながらも麗音は答えた。
ヴァイオリンを構え弾きはじめる。
コンクールの課題曲。メンデルスゾーンのコンチェルト。
麗音のヴァイオリンには新しい出会いの喜びが満ちていた。

拍手しながらツカサが言った。
「すごいよ、レオくん。ていうより、面白いメンデルスゾーンだね」
「ふふ。今はお兄ちゃんしか聴いてないから、特別。お父さんやお母さんの前でこんな弾き方したら怒られちゃうから」
麗音は気丈に振る舞って言う。
小さいながら麗音は親の顔色をよく伺う子どもだった。
そんな素振りは感じさせないような、笑みを浮かべるため誰も気付かないが。

「じゃあさ、これからも俺にヴァイオリン聴かせてよ。その時だけは自由に弾いて?」
「本当に?」
「うん」
「いつでも?」
「うん、いつでも。俺、この通り病気だから。」
だから、こんな時間にパジャマなんて着てるんだ…なんとなく麗音は納得した。
「じゃあ毎日弾くね!」

これが出会いだった。

俺の才能はたくさんの人の人生を狂わせたのかもしれない

両親も俺自身すらも


***


コンサートが終わり、麗音はため息をつく。

今回の指揮者も麗音の両親を怖がってペコペコしてきた。
そのクセ音楽も満足にできない。

やっぱり、ろくでもない奴しかいない。

つまらない。いや、辟易する。

こんなガキのいいなりになって、バカみたいだ。


不満ばかりたまる毎日に嫌気がさして、今日の夜も麗音は街に出た。

いきつけのクラブでいろんな女性と話してはキスを交わす。
誰か一人を選んで朝まで共に過ごす。
麗音の夜はいつもそうだ。

それでも何一つ満たされることはなかった。


***


朝方、家に戻ると父さんと母さんが玄関に立っていた。
「また勝手に抜け出したな?!」
俺はそれをムシして玄関に上がった。
「しかも練習してないんじゃないの?」
「練習しようがしまいが俺の勝手だろう」
冷めた声色で俺は答えた。
母さんは逆上して責め立ててくる。
「麗音、あなた最近どうしちゃったの?」
どうしたもこうしたも、誰も俺を金儲けの道具にしか見ないならこうするしかないじゃないか。
どうせ、誰も本当の、ありのままの俺を見ない。見ようとしない。
「ヴァイオリンを弾かないお前なんて何の意味もないんだからな!?」
ほら来た。得意のセリフ。
俺はわざと大きくため息をついて部屋に向かおうとした。
すると母さんが一言口にした。
「麗音、あなたに紹介したい人がいるの」
「…え?」
「そう。教育係みたいなものよ。」
教育係…何だよ、それ。
また他人まかせかよ。俺の話は聞いてくれないんだ。
もう何度このハードスケジュールをやめたいと言ったことか。
おかげで学校をたくさん休むことになり、俺はますますみんなの嫉妬の対象になった。
「夜は出歩かないで、彼にヴァイオリンを教えてもらいなさい。信頼できる指揮者だよ」
「…」
返事はせずに階段を上る。
教育係って、どうせまた自分たちの機嫌を取ってフォローしようっていうやつを用意してるんだろ。
こないだ来たやつだって、父さんと母さんの素晴らしさとか、どれくらい俺のためを思ってるかとか、吹き込んできたし。
ていうより、見張り係か。
今度はどんなワガママで追い出そうか…
考えながらドアを開けた。

部屋の中に一人、後ろ姿が見えた。

一瞬、息が止まるかと思った。

そう、それは懐かしい後ろ姿だったから。待ち望んでいた人の姿に似ていたから。

その人は振り返って言った。
「おはようございます」
「ツカサ兄ちゃん!!やっと来てくれたんだ!俺ずっと待ってたんだよ!」
俺は柄にもなくはしゃいでその人に飛びついた。
やっと、会えた。
来てくれるって信じてた。
ところが、返ってきた言葉は…
「ツカサ…誰ですか?俺は藤夜瞬というんですが…」
「え、だって、その髪にその顔…ツカサ兄ちゃんでしょ!?十年会ってなくたって俺にはわかる!」
いや、俺がツカサ兄ちゃんを間違えるわけがない。
藤夜瞬と名乗った教育係は、困惑の表情を浮かべた。
「俺の髪は染めてるんですよ」
「うそ…」
よく見れば、瞳の色が違う。彼の瞳の色は黒だったが、ツカサ兄ちゃんは緑がかった薄い茶色だった。
間違えた?!
他人に、しかも親が雇ったやつなんかにこんなところを見せてしまったなんて。
信じられない。
最悪の失態だ…。
急に恥ずかしくなった俺は部屋をでようとした。
「どこに行くんですか?」
改めて見てみると、雰囲気はツカサ兄ちゃんとは全然違う。
ふにゃふにゃ笑って、ただのチャラいやつじゃないか。
こんなやつをあの人に間違えてしまうなんて…
自分の単純さに腹が立つ。
むしろ、俺そんなにツカサ兄ちゃんのことばっか考えてたのかなあ。
「どうかしましたか?」
「うるさい」
今日はこれから学校だ。
とにかく早くこいつから離れよう。
俺は教育係をほっといて学校の準備をはじめに行く。
まずは、シャワーか。


準備を済ませた俺はそそくさと玄関を出ようとした。
玄関先で待っていた藤夜がへらへらと話てきた。
「麗音くん、午後からのリハーサル、来て下さいね」
「イヤだ」
「いってらっしゃい」
早足で学校へ向かう。
まさかあいつ、ずっとうちにいる気じゃないよな…?
最悪だ。なんか、気まずいし。


今日もリハーサルサボろうか…どうせ練習しても変わりっこないし。
そんなことを考えながら午後イチの授業を受けていた。
すると、ガラリ、と教室の扉が開く。
何だろ…ぼーっと扉の方を見やると
「ふ、藤夜?!」
「またサボろうとしたでしょ?迎えに来ましたよ」
迎え?!
クラスに笑いが沸き起こる。
俺は仕方なく荷物をまとめて教室を出た。
そんなことされたら、教室にいにくいし。みんなの前でワガママ言うわけにはいかないし。
考えたな、こいつ。
でも、高校生になってまでお迎えなんて…恥だ。
ま、大恥なら朝こいつの前でかいたが。
俺たちは車で会場に向かった

ヴァイオリンを準備して舞台に上がった俺は、あるモノを見て唖然とした。
「な、なんであんたが…」
指揮台に立っていたのは藤夜だったのだ。
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
言ってませんでしたっけって…
ケロッと言うなよ。
「共演者の名前くらい覚えといて下さいね」
こいつのふにゃっとした笑顔は何か含んでいるようで苦手だ。
「必要ない。」
誰がやったって毎回同じようなダメ演奏だったし、いちいち覚えている価値はない。
今回だって、絶対、そうなるに決まってる。
「だいたい、いくつなんだよ。あんた。指揮者にしては若くないか?」
「こう見えても29ですよ。」
29歳…ツカサ兄ちゃんは確か今25歳のハズだから…やっぱり、違うんだ…。
って、こんなやつのわけないだろ。
何いまだに夢見ちゃってんだよ、俺。
「どうしました?はじめますよ。それと、俺のことはあんたじゃなくて、せめて名字で呼んで下さい」
俺は返事をせず、目をそらしたままヴァイオリンを構えた。
ここからは、俺の独壇場。
誰も俺の音楽を邪魔はできない。


***


リハーサル終了後、団員はやはり噂話ばかりしている。
「王子様、珍しく遅刻して来なかったけど、噂通りの暴れ馬だな」
「やっぱりあんなナヨナヨした若い指揮者の手には余るな」
「制御しきれてないよね」
「しかし、水沢麗音。よく言えば面白い、悪く言えば勝手、だよな。合わせにくいっちゃ合わせにくいというか…」
「おまけにあの性格。」

しかし女性陣の話題は違うところにあったようだ。
いわゆる美形の藤夜は評判がいい。
しかも、麗音にワガママを言われても動じることがない。
紳士的という意見もあれば、もっと男らしくビシッと言ってやれとの意見もある。
「そういえば、噂なんだけど…」
「何なに?!」
興味津々で他のメンバーが反応する。
「麗音くんって、普段はあんな感じだけど…ふとした時に、甘えてくるらしいよ?」
「え~…お姉さん、僕、今日は帰りたくないんだ…とか?!」
「キャー!!!!!!!」
当の本人たちは何も知らずにいたが。

麗音にいたっては明日の本番前のリハーサルをどうやってサボろうかばかり考えていた。


***


その日の夜、藤夜をまいてきた俺はふらっとコンビニに立ち寄った。

雑誌のコーナーには女性が2人いた。
「すっごい可愛くない!?」
「可愛い可愛い」
きゃあきゃあうるさいなぁ、と思ってチラッと見ると、
彼女たちの見ているページには…
俺!?がいた。

そういえば、こないだ女性誌のグラビア撮影やらされたんだっけ。
両親はこういうプロモーションにもぬかりはない。
音楽に関係ないことはしたくないのに。

てか、俺「可愛い」、なんだ…。
軽くショックを受けたが、彼女たちは俺に気付かず会話を続ける。
「ヴァイオリニスト、水沢レオ…だってぇ~」
「え~、こんな可愛いヴァイオリニストいるの?!」
「お知り合いになりたぁーい」
「ヴァイオリン以外のこと知らなそうだよね」
ふーん、騙されてる騙されてる…。
我ながらすごいなーと思ってみる。
どうせ今日は帰らないから、ここでつかまえてもいいよな。
「じゃあお姉さん、今夜俺と遊んでくれますか?」
「え?!うそ、本物?!」
目の前の彼女たちはかなり驚いている。なんかベタな展開…と思ったら、後ろからガッツリと頭を掴まれた。
「見つけましたよ、麗音くん。帰りましょう?」
「な、藤夜!なんでいんだよ!」
「なんでって、言われましても…。見つけたからいるんですよ。」
「ふざけんな!お前はストーカーか!うわっ」
その瞬間、俺の体は持ち上がり藤夜の肩の上に乗せられていた。
「おい離せよ!」
「すいませんでした…」
藤夜がお姉さんたちに謝り店をあとにする。
今までのやつは探しにもこないで給料ばっか持ってってたのに。
いかんいかん…何感心してんだ俺…。


家に着いた俺はまっすぐ部屋に向かった。後ろから藤夜が言う。
「明日のゲネプロ、来てくださいね」
「嫌だ。だいたい、なんで俺がお前の肩に乗っけられて運ばれなくちゃなんないんだよ」
「そのことは謝ります。すいませんでした」
素直すぎる相手に俺は戸惑う。
「じゃあ、明日のゲネプロは来なくていいですから。その代わり今日は家で大人しくしていてください」
「…」
なぜか俺は、その時藤夜を呼び止めようとした。
なぜかは…わからないけど。
でも、けっきょくこいつも、俺にも両親にもいい顔したいだけじゃないか。
バカだよ。あっさりあんなワガママ聞いてくれちゃってさ。
「お願いします出て下さい」なんて、頭下げてくればいいのにさ。


***


また、いつも通り退屈な本番。
この日のコンサートはオールチャイコフスキー。
後半に悲愴を持ってきてるなんて、自分の力買いかぶりすぎなんじゃないの、あいつ。
そして一曲目、幻想序曲「ロミオとジュリエット」が始まった。
この日の俺はなぜか舞台裏で聴いていた。
なんとなく、あいつの実力を計りたかったのかもしれない。
結果は…やっぱりつまんなかった。
あんなもんか。
ツカサ兄ちゃんのピアノの方がずっとすごい。
ツカサ兄ちゃんは体調がいい時はピアノを弾いてくれた。
2人で合奏したときもあった…。
楽しかったな、あの頃は。ほんの少しの、短い間だったけど…。
「麗音くん!麗音くん!麗音くん?!」
「え?」
「何ぼーっとしてるんですか、出番ですよ?」
いつの間にか終わっていたらしい。
我に返った俺は急いで気分を切り替える。

舞台の中心へ向かう。

前奏がはじまる…
どうせ、昨日と同じ…
え?!
押し寄せるオーケストラのプレッシャーに俺は驚いた。
これが、昨日と同じ指揮者の演奏なのか!?
ソロが始まる直前、俺は藤夜の目を見た。
いつもの笑みがそこにある。でも何か、雰囲気が違う。
本当に同じやつなのか…?!
いや、動揺してる場合じゃない。
俺は再び曲に集中した。

何だろう…引っ張られる…
いつもみたいに好き勝手弾けないっ…!!

曲が終わり拍手が鳴る。

終始俺のヴァイオリンは藤夜の指揮に支配されていた。失敗だ…

あれ?

いつもより、盛り上がってる?
ウソだろ…俺は自分の音楽を出来なかったのに…
こいつに、藤夜に負けた?

拍手がやまない。
でも俺は乗り気になれない。
なんで…

俺はその拍手が自分に向けられた気がしなくて、一目散に控え室に戻った。

「なぁ、本当に昨日の指揮者だよな?」
「王子様、プライド丸つぶれ?」
走る途中に楽団員の声が聞こえた。
俺のプライドが丸つぶれだって?
みんなにそう思われてるなんて。


最後の曲が始まった…
これは…まぐれとかじゃない。
あいつ、ネコかぶってやがったのか?!
本番の、一曲目まで犠牲にして。
一体何のために?!


もんもんとしてきた俺は、誰とも会いたくなくて、曲が終わる前に会場を急いで後にした。

何なんだ!あいつ!


***


「おやおや、ご機嫌ナナメですか?ワガママ王子様は。」
「勝手に入るな!しかも何だよそれ。」
「何って、みんな影であなたのことそう言ってますよ?」
と、とぼけた表情で藤夜が言う。
こいつ…やっぱりワザと…。
「出てけよ、顔も見たくない」
「せっかく取材とか切り上げて帰ってきたのに」
藤夜は残念な表情を作るが、なんだか胡散臭い。
もしかしたら、とんだ食わせ者なのかも。
「どうでした?今日」
と言われ、多少プライドが傷ついた…とは言えない。
いや、多少どころかかなり傷ついてる。
でも、それまで知られたらますます傷つく。
「藤夜さん、思ったよりスゴくて、俺ビックリしちゃったよ。共演できて良かった」
一言だけ言って部屋を出ようとした。
これが精一杯の努力だ。
共演できて良かったなんて、微塵も思ってるもんか。
背中越しに藤夜の声がした。
「麗音くんって、本当にプライドが高いんですね」
「え?」
「顔に全部でてますよ」
そんな…必死でこいつへの敵意を取り繕ってたつもりなのに。
「そういうところも、子どもですよね。」
「どういうことだよ?」
ムシすればいいのに、何で聞いちゃったんだろう。
「いい加減、ご自分の欠点を認めたらどうですか?」
見下したような、冷たい視線…
普段の態度からは考えられないくらいの。
「ムカつく。嫌いだ、アンタ」
「本当、ガキだよな。お前のヴァイオリンと同じ。」
藤夜の口調が変わる。
態度もさっきまでとはうって変わってふてぶてしい。
「どうだ?自分の誇りたる音楽で負けを突きつけられた気分は」

ウソ…
これが、二重人格ってやつ?
まぁ、この世界じゃ珍しくもないし。
むしろ俺なんて裏も表もないくらいに悪いけどさ。

俺はこいつに二回も騙されたってこと?
キツネにつままれたような顔で俺が突っ立ってると藤夜が近づいてきた。
とりあえず、部屋を出ようとドアノブに手をかける。

すると、俺がドアノブにかけた手を藤夜がつかんだ。
「はなせよ…」
「話、最後まで聞いたらな」
こうなったらとことん反抗してやる。
俺は振り返って藤夜を睨む。
「聞きたくない」
「ったく、ガキだな」
呆れたように藤夜が言う。
もう、こいつに何言われても気にしないようにしよう。
だいたいガキだと言われても困る。
ま、実際まだガキだけど・・・。

っていうより…
近い…っ!!
「お前のヴァイオリンは好き勝手やってる子どものヴァイオリンだ。」
「それの何が悪いんだよ」
「秩序のない自由なんて、美しくないだろう?」
「は?」
何を言ってるんだろう、こいつは。
必死に守ってきた、最後の一つまで否定された気がして俺はうつむいて顔を歪める。
すると、藤夜の顔が近づいてきて、耳元でささやく。
「俺が、麗音くんのヴァイオリンを大人にしてあげますよ」
「…っ!」
吐息がかかるほど近い。
普段の口調に戻った藤夜は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「それじゃ、おやすみなさい」


「っざけんなよ!あのクソやろう!」

藤夜が部屋を出てから、小声で文句を言う。
本当はでっかい声で叫びたかったけど、聞かれたらイヤミ言われそうだし。
まじ、腹立つ!!

とんでもないやつが教育係になったかも…。
こいつの本性は、きっと両親も気付いていないだろう。
いつもならもっと冷静に対処できるのに、こんなに熱くなってしまうのは藤夜がツカサ兄ちゃんに似ているから、なんだろうか。

同じ顔のクセに性格は全然違うし…
ツカサ兄ちゃんとの思い出が汚される…あんな奴!

何なんだよ。あいつ。
何があなたのヴァイオリンを大人にしてあげますよだっつうの!



***


今日は試験の伴奏合わせがある。
そのため、授業が終わった俺は練習室に向かった。
約束の時間になっていたがそこには誰もいなかった。
……………………。
……………………。
……………………。
あれ?
30分は経とうとしていた。
まさか、また…?
たまに、こういうことする奴はいるけど…
やっぱり俺って良く思われてないのかなぁ…?

ガチャリ、と扉の開く音がして俺は振り向いた。
「あれ?」
そこにいたのは伴奏者の秋田ではなかった。
背の高い、いかにも爽やか系。
人なつっこそうな笑顔で申し訳なさそうに謝る。
「すいません。秋田、来れないみたいで…」
「やっぱり、やりたくない、ってことか…」
「いや、そういうわけじゃ…ありますけど。」
「お前が申し訳なさそうにしなくてもいい」
人が良さそうなやつだ。
同級生に頼まれて仕方なくって謝りに来たって感じかな。
「あの…先輩、伴奏、俺にやらせてもらえませんか?」
「え?」
「俺、一年の相澤日輝です!とりあえず、一回合わせてから判断してもらってかまいませんから」
熱血な感じに気圧された俺は、とりあえず一回合わせることにした。

「よろしくお願いします、センパイ」


人からは取っ付きにくいと言われる俺に、こんなに自然に話しかけてくるやつって珍しい…。

少しは気分転換になったが、やっぱり帰るのは気が重い。
はー、っとため息をついてふと前をみると
「げ」
校門前に藤夜が迎えにきていた。
「お帰りなさい。麗音くん。」
表・藤夜だ。
その含み笑顔やめろ!
ムシしたら、またやれガキだの何だの言われると思い素直に車に乗り込んだ。
「今日は素直ですねぇ」
イヤミくさいんだよ!
素直に車乗って悪いか。
俺は反対側の窓の外を見る。
「負けず嫌い、なんですね」
「違うし」
「どうせ素直に乗らなかったらまた俺に何か言われると思ったんでしょう?」
図星だ…
どうやら全てお見通しの上らしい
藤夜は返す言葉もない俺を小さく笑う。
それから家に着くまで無言のままだった。


***


「と、いうわけで、さあ、リサイタルのレッスンでもしましょうか」
「はぁ?曲ならもう決めてるし、お前の助けなんて必要ない。」
「だって伴奏、合わせないとダメですよ」
「誰と?」
「あなたと俺が」
「…へ?」
唐突な答えに俺は戸惑った。
まさか、リサイタルの伴奏も藤夜…?
そんなわけないよな、指揮者が高校生ヴァイオリニストの伴奏なんて。
また反応を見てるわけ?

「どうぞ」
そこには俺の今後3ヶ月間のスケジュールが書いてあった。
よく見てみると…
指揮・藤夜瞬
ピアノ・藤夜瞬
の文字ばかりが目に付く。
ウソだろ…そんなのありかよ。
「あ…」
「残念ながら全て本当のことです。暴れ馬の調教が終わるまでは俺が全部面倒見ます」
「ありえないだろ、それ」
「とにかく、早く一人前の人間になって下さいね」
「なんだよそれ。人を出来損ないみたいに…」
「事実そうでしょう。あいさつはしない、ワガママ言うわ遅刻するわ。常識ないのに働こうなんて虫が良すぎると思いませんか」
ひょうひょうと言ってのける藤夜がかんに障る…
たかが会って数日の男に何でここまで言われなくちゃなんないんだ。
俺だって好きで常識ないようにふるまってるんじゃない。
小さい頃から早く大人になるよう急かされてきて…それに疲れただけなのに。
人の気持ちも知らないで。

大人になれ大人になれって、うるさいんだよ。
だいたい…
「絶対にやらないからな。ピアニスト変えないと弾かない」
「…今のあなたが弾いてもめちゃくちゃになるだけです。子どもだから合わせてもらえる、多目に見てもらえると思ってるんじゃないですか?」
「なんだよそれ」
容赦なく、藤夜の批判めいた説教は続く。
俺は、自分のことを子どもだとも思ってない。
俺は、俺だ。
「俺との共演だって、自分が負けてるとまた思い知らされるのが嫌なだけでしょう」
「ふざけんなこの二重人格!」
どん、と目の前にある藤夜の体をたたく。
口調はネコかぶったまんまだけど、声色や威圧感は違う。
ますますイライラする。
反応を楽しまれているようで。
「その口調、気色悪いんだよ。それなら裏の口調で言ってくれたほうがまだマシだ」
「そうですか。じゃ、お言葉に甘えて。今から素の俺でいくから」
この見下した態度とか、本当腹立つけど口調であやふやにされないほうがいい。
「プライド高いと大変だな…」
「余計なお世話だ」
「じゃ、やるぞ。時間のムダだ」
藤夜にいきなり会話を切られる。
それじゃ言い逃げだ。
「どうした?言うこと聞かないなら、プライドまたへし折ってやるぞ?」
今度プライドが傷ついたら本番で失敗する気がする。
いっそのこと、わざと失敗するって手もあるけど、それは俺のプライドが許さない。
時々、自分で自分の性格に呆れることがある。
悩んでも、そう簡単には変わらないし。変えるのも怖い。
「わかったよ。やる」
「素直でよろしい」
やっぱりこいつには、急に怖くなったから合わせることにした俺の気持ちもお見通しなんだろうか。


***


一曲、合わせ終わると藤夜が口を開いた。
どうせすごい文句ばっか言われるんだろうな。
ていうか、なんでピアノこんなに上手いんだ。
本当、腹の立つ男だ。
ところが、予想外の言葉が出てきた。
「やっぱり、面白いな。お前のヴァイオリンは」
え、もしかしてほめてる?

「雑だし、対抗意識バリバリだけど、仕掛ければ面白い反応を示すし。スリリングでいいんじゃねぇの?」
喜ぶな、俺。
いつもは誰にほめられても信じられなかったけど…
「ただ、ずっと聴き手に緊張を強いる演奏はどうかと思うがな。」
何で今はイヤミっぽくないんだろう…
「麗音、ヴァイオリン置け」
「うん…」
何素直になっちゃってんだ、俺。
「え?」
気付くと、藤夜が手を俺の腰に回していた。ありえないくらい、密着している。
「それよりお前、そんなに俺と合わせるの嫌か?」
「あ…い、嫌も何もあるか!この変態!離れろ!」
「初対面でいきなり抱きついてきたのはどこの誰だったっけ?」
「それは、人違いだろ!だれがてめーなんか!」
またイヤミくさい藤夜に戻った。
一瞬でも感心した俺がバカだった…。
すると、真面目な顔して藤夜が言った
「保証するよ。俺たちの息がぴったり合えば最高に気持ちいいぜ」
だから耳元で話すな!
「俺は合わせる気ないから」
「言っただろ?大人にしてやるって」
「な…あんた、いちいちヤらしいんだよ!」
あれ、藤夜が何も言い返してこない。
沈黙に耐えられず、背けた顔を正面に戻すと藤夜の顔が近づいてきた。
反射的に俺は顔をよけて叫んだ。
「やだ!」

「ふっ…あははははは」
藤夜の大爆笑に驚く。
「何がおかしいんだよ」
「キスされると思うなんて、お前って本当ガキ。お前よっぽど思考回路乙女なんじゃねぇの?」
騙された…
こういう時、自分の単純さとか、子どもの部分が無性に嫌になる。
どうがんばっても、駆け引きとかは大人のこいつに負けるって。
「ま、せめて演奏中もそれくらい想像力働かせてくれよ?」
信じられない。
17やそこらの高校生だましてそんな余裕かましまくってるなんて。
はっきり言ってますます合わせたくなくなった。
こいつと音楽やるなんて不快だ…
絶対楽しくも気持ちよくもなるもんか






ぐわ~[exclamation×2]恥ずいなぁ。

ほんと下手な文でスイマセン[もうやだ~(悲しい顔)]

なんか半端なところですが、プロトタイプは終了です。
決定版はもうちょと変えます。
どうやったらBLになるのか悩みながら書いてますね~[たらーっ(汗)]

引き続き編集頑張りマス。。。


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